講演者紹介

公衆衛生獣医師としてWHOで働く

厚生労働省健康局結核感染症課 課長補佐 福島 和子先生

1999年、東京大学農学部獣医学科卒業

同年、厚生省(当時)入省

1999~2002年、食品安全部監視安全課

2002~2004年、米国メリーランド大学食品科学科修士課程修了

2004~2009年、食品安全部基準審査課、企画情報課国際食品室

2009~2012年、WHO(世界保健機関)食品安全・人畜共通感染症部出向

2012年5月より現職。

 

講演要旨

これまで厚生労働省において食品の安全性動物由来感染症の発生・蔓延の予防に関する業務に携わってきました。日本は、食糧の多くを輸入に依存していること、また、感染症の流行に国境は無いことから、私たち公衆衛生獣医師は、常に海外の状況に敏感にアンテナを張りめぐらせながら仕事をしており、広義においては、国内にいながらにして、国際関係業務に携わっていると言えます。

狭義の国際関係業務ということで言えば、厚労省国際協力の一環として、世界保健機関(WHO)に数名の職員を継続的に派遣しており、その中には獣医系技官も含まれています。私も、3年間という限られた期間ですが日本政府からのsecondeeとして、WHOの食品安全・人畜共通感染症部で勤務をし、様々な経験を得る機会がありましたので将来、公衆衛生分野国際公務員として活躍したいと考えておられる皆さんに、WHOの基本的な仕組や、採用までの道のり(どのような採用形態があるか)採用後のキャリアパス、国連勤務のメリット・デメリットなどについて、個人的な所感も交えて、ご紹介したいと思います。

 

FAOで働くということ~牛疫撲滅プロジェクトで学んだこと~

帯広畜産大学畜産フィールド科学センター教授 門平 睦代先生

1978年岩手大学農学部獣医学科卒業。1980年より青年海外協力隊獣医隊員として、ザンビアに派遣。1981年から約3年間、FAO専門家(獣医疫学)として汎アフリカ牛疫撲滅作戦に従事。また、1995年から約4年間、JICA専門家(獣医疫学)としてザンビア大学獣医教育プロジェクトに参加する。1999年から2005年まで名古屋大学に在籍し、農学分野での人づくり協力をモットーに海外を中心とした研究活動を行う。2005年より帯広畜産大学に移り、2011年より現職。

講演要旨

獣医になって具体的にどんな仕事がしたいのか、本当にアフリカで働きたいのかなど、人生について真剣に考え始めたのは大学生の時であった。馬術部を辞めてESS(英会話サークル)に属しながら、大学4年生の時に社会人が主宰する海外研究会に加わり、海外移住や国際協力の勉強を始めた。大学卒業後、ある県庁の食品衛生課に獣医師として就職した後にも、民族学博物館友の会のインド・ネパールの旅に参加するなど思考錯誤しながらも、アフリカへ行くという覚悟はできていた。2年8ヶ月間の公務員生活にピリオドを打ち、青年海外協力隊員としてザンビアの地を踏んだ。そして、ザンビア隊員時代の任国外旅行でタンザニアのザンジバル島を訪問した時、WHO(世界保健機構)の日本人マラリア専門家に偶然、空港で会ったのが、国連職員になりたいと思ったきっかけである。FAOには4年間しか勤務していないが、ケニアのナイロビを基点に牛疫のアフリカ大陸における撲滅作戦に従事し、多くの国々を訪問し、牛を飼うという意味を考えることができた。牛疫撲滅という成功談も含めて、豊かな実務経験を与えてくれた私のFAO勤務話が、国際機関で働きたいという皆さまのお役にたてば幸いである。

獣医師と国際機関

元OIEアジア太平洋地域代表 藤田陽偉先生

山口大学農学部獣医学科卒後農林水産省入省。同省農林水産技術会議事務局国際研究課長(1988~1992)、畜産局衛生課長(1992~1994、CVO of Japan)の後、国際分野では国連食糧農業機関(FAO,本部在イタリー)畜産部長(1994~1998)として動物衛生を含む世界畜産開発の企画と事業実施管理に従事。国際畜産研究所(ILRI、本部在ケニア)理事(2000~2006)として国際畜産開発研究管理、国際獣疫事務局(OIE,本部在フランス)アジア太平洋地域代表(1999~2009)として動物伝染病対策を含む国際・地域動物衛生業務、また、チェンマイ大学アドバイザー(本部、在タイ、2003~現在)としてアジア太平洋地域獣医公衆衛生センター(VPHCAP)の運営助言に従事。国内関係では、東京農工大学非常勤講師、(財)日本生物科学研究所理事、(社)畜産技術協会常務理事などを歴任。

講演要旨

日本の置かれている国際的立場及び貢献への期待に鑑み、今後とも国内関係者による国際的な活躍を抜きにしては世界における我が国の存在感と貢献は達成できないと考えられる。そうした中、世界の畜産は中・長期的に肉、卵、乳など動物性蛋白質への供給要望が開発途上国を中心に増加し、発展すると推定されている。一方、獣医師が関与する健康な動物の生産と畜産物の供給に対して、特に人獣共通感染症を含む新興疾病・越境疾病が阻害要因となっている。このことは、同時に人の健康リスクとなっているという課題があり、獣医師のもつ専門的知識と経験によるこれらへの国際的対応と貢献が今後とも強く求められる方向にある。それらについて関与している主な国際機関として、国際獣疫事務局(OIE)、国連食糧農業機関(FAO)、国際畜産研究所(ILRI)、世界保健機関(WHO)などがあり、これらの機関の活動概要や国際機関での専門職に求められる資質や能力、さらに募集から採用までのプロセス、待遇などについて知る。一方、国際機関での勤務を目指して平素から準備すべきこととして、専門分野やこれにまつわる関連分野の知識・経験などの積み重ねと情報収集など必要とされる心構えや取り組みについて論議する。